農薬を使わない有機栽培を求めて那須町へ
私たち夫婦は、2016年にこのスノ・ハウスで働くため、那須町に移り住みました。私も主人も農業とは無縁の家庭で育ち、知り合った職場も農業とは無関係のところでしたが、たまたま2人とも農業に対する憧れがあり、結婚後にそれぞれ近くの慣行農家(化学肥料・農薬を使用する一般的な農家)で仕事をしていました。
ところが、その経験の中で、通常の農作業の中でどれほど多くの農薬が使われているかを知ることになります。子どものころから自然環境への興味を持っていた私は、できることなら農薬を一切使わない有機農業に就きたいという気持ちを強く抱くようになりました。
たまたま主人がこのスノ・ハウスで、後継者探しを含めた研修生の募集を行っているのを見つけ、「まずは見学に行ってみよう」と、すぐに2人で那須町へと向かいました。農場のオーナー夫妻が畑を案内してくれたあと、奥さんが手料理でもてなしてくれたのですが、色とりどりの野菜が本当においしく、話すことも忘れて主人と夢中で食べ続けたことをよく覚えています。
JAS認定を受けた、創意あふれる栽培技術、整備された勤務環境などにも心を動かされ、私は、思い切って主人と那須町に移住し、研修生としてスノ・ハウスに飛び込んでみることを決心しました。
那須町の自然の力で忘れていた自分を取り戻す
スノ・ハウスでメインとなるのは、フリルレタスやからし水菜など少し珍しい種類のサラダ用野菜です。個人向けに宅配するほか、那須町のレストランやホテル、都内のオーガニック専門店などへも卸しています。有機栽培の野菜は味が濃くてアクが少なく、またとても長持ちするので、多くの方に喜んでいただいています。
那須町で農業に就くことで、私は、自分が自然環境の中にいることがこんなにも好きだったのだと、あらためて気づくことができました。
自宅から農場に行く途中に、那須連山を望める見晴らしのよい場所があるのですが、そこを通るたび今でも心がときめきますし、畑で作業をしているときも、自然の中に生息する生命のちょっとした動きに日々驚きを感じ、魅了されています。
たとえば、野菜の芽が出る瞬間の様子や虫たちの意外に可愛らしい動作を眺めているのも本当に楽しいんです。そういうものを目にすると、自分も野菜も虫も、形は違えど、この地球上でそれぞれの役割を果たす生き物なのだと実感します。
長い間忘れていたそういった感覚を再発見し、本来の自分を取り戻していくような感覚を、私はここで仕事をしながら体験することができています。
共鳴する人たちとつながっていける幸せ
那須町では大小様々なイベントやマルシェがたくさん開催されます。そういう場に足を運び、自分が興味を持っていることについて話すと、あっという間に共通する考えや感覚を持つ人たちとつながっていくことができるんです。そこが本当に那須町の素晴らしいところだと思います。
もし、那須町に興味をお持ちの方がいたら、ぜひ実際に足を運んでイベントに参加したり、短期の仕事を体験していただくのがおすすめです。そうすれば、すぐに、那須町の自然やそこに暮らす人々の素晴らしさを実感していただけると思いますから。
そういえば最近自己紹介をする機会があって、何気なく「農業をやっています」と口にしたんです。すると突然、誇らしい気持ちが胸いっぱいにぱーっと広がるのを感じて、そんな感情が自分のなかにあったなんて、ちょっと驚きました。那須町に来て、自分が本当に求める仕事に出会えた幸せを実感した瞬間だったのかもしれませんね。
いつの日か、スノ・ハウスをオーナー夫妻から引き継ぎ、主人と2人でしっかり運営していけるようになったら、自分たちの有機野菜づくりを生かして、那須町の人々の健康促進や美しい環境の保全に役立つようなことにも、関わっていけたらいいなと思っています。
脚注)*有機JAS認定
有機食品のJAS規格に適合した生産(農薬や化学肥料などの化学物質に頼らない、自然の力による生産)が行われていることを登録認証機関が検査し、認証された農場や事業者のこと。農産物に「有機JASマーク」を貼ることができ、商品に「有機」「オーガニック」の名称を使うことが許可される。